血縁関係

「黒崎、頂戴。」

石田は礼儀正しい。欲しい時は、きちんと俺に告げることを忘れない。
だから俺は、少しも彼を待たせることなく、差し出すのだ。
 
 
「……いただきます」

石田が言う時、俺は痛みを感じない。夏場に忌み嫌われるあの小さな羽虫と同じで、突き刺した
瞬間、麻痺毒も一緒に身の内に注ぐ為だ。俺が痛くないようにという、石田の優しさ。いや
――俺に値するものが痛くないようにという、血を啜る種が持つ、優しさなんだろう。
今、尖った歯の先が皮膚を突き破って、ゆっくりと内に入っている頃。
全身で受けとめる細い身体は、俺より少しだけ足りない温度で、俺の背にすがっていた。

「ん、」

石田の薄い唇が首筋に触れ、隙間なく肌に密着する。口内に溢れるそれを一滴もこぼすまいと、
彼が小さな口を懸命に開けているのが分かる。強くやわらかく吸い上げられて、その急激な欠乏に
身体が追いつかず目がくらんだ。

「ッ……がっつくなって……」

もっと味わえと冗談めかして、でも半ば本気で思い、頬をくすぐる黒髪をすく。
落ち着かそうと背中を撫でたら、失われる勢いが遅くなったのを感じた。石田は素直だ。

「……それで良い。」

存分に、満足に、摂取しろ。俺とお前が生きていくために。
 
 
『黒崎、頂戴』。
初めての時は、痛かった。

『黒崎、頂戴』。
二度め、痛みを思い出して怖れた。けれど、最初よりは早く済んだ気がした。

『黒崎、頂戴』。
三度め、俺は穴を空けられたことに気付かなかった。ちゅう、と吸い上げる音に驚いて、
うっかり全く関係ないことを質問した。石田は小さく笑って、美味しいに決まってる、
だって君のだもの、と呟いた。石田を生かすたびに、俺は麻痺していく。
一瞬にも満たないわずかな時間を重ね続け、何も感じない身体に近づきながら。

そろそろ「食事」を終えようかという時、腕の中で変化が始まる。手のひらに温かさが、
眼鏡越しの黒い眼に光が、だんだんと戻ってくる。そうして当面の動力を得た石田は、
しかしなかなか離れることをしない。

「黒崎――これは、食事の分じゃ、ないよ。」

抱きしめられた。全身で受けとめる細い身体は、もう俺と同じくらいの温度で、俺の背にすがっている。
その唇を首筋ではなく、俺の、同じところに重ねて。

分かっている。俺はお前が好きだと思う。お前は俺が好きだと思う。――いつか俺が、
お前の温度を感じることが出来なくなっても。それでも、今の俺はためらいなくささげるのだ。