無所属新人黒条よしひと*イラスト付き

自慢じゃないが、一度だけテレビに出た事がある。
それはつい3分前の話、入学式から下校していた時だ。大通りの交差点で取材中らしきインタビュアーと
カメラクルー達に目をつけられたのは、入学式帰りの僕が鞄にコサージュを付け替えていたからだろう。

「そこのきみ、良かったらカメラの前で一言貰えないかな!? 来たる地方選にむけて、
昨今の政策に若者からもの申すっていうか……、政治家や学校の先生に言いたいこととかある?」

愛嬌たっぷりにコメントを求めてくる彼女は、そこで思い出した、夕方のニュースに出ている女子アナだ。
本物も可愛いなあと見とれる僕に先手を打つように「きみカッコいいから、今晩のニュースで使いたいな」と
畳み掛けてくる、なかなかのやり手である。見透かされたようで恥ずかしかった僕はすぐには返事をせずに、
カメラ映りを気にするふり、はにかみながら手ぐしで頭を整えることで、OKの返事に代えてみた。

さて、どんな一人称と口調でいこうか頭の中で決めてから、僕は向けられたマイクに訴える。
新入生らしい、なんて無防備な心で微笑ましく見る彼らが好みそうな、画面映えしそうな意見を。

「そうっすね……、強いて言うなら、ガッコの先生も、政治家の先生も、
とにかくオレらにストレートに伝えて欲しいっつーか。苦手なんすよ、難しい話は」

それから僕は、今年に入って話題になった記者会見や国際情勢にまつわるゴタゴタについて、
思い出すそぶりを見せながら、ささやかに意見した。軽い口調と物怖じしないカメラ目線はどこから撮っても
“入学式を迎えたことで、今までより真剣に世間に目を向け始めている学生”に見えているころだろう、
その証拠に、クルー達の晴れた心には一片の曇りも見えない――なーんちゃって、地の文で嘘をついてはいけないか。
そして「以上スけど、」と言葉を締めくくると、彼女は明るい笑顔で礼を言う。

「ご協力、ありがとう! きみの一言良かったよ~、晩の放送もぜひ見てね!」
「いえいえ、こちらこそ貴重な体験でした。」

僕たちがまだ向き合っているのに、カメラマンやスタッフらはもう次の段取りについて話しているようだ。
まったく隙だらけだな、見えてない人間ってものは――
おかげで二言三言、しきりに曇りを見え隠れさせる心の彼女に、僕の小声を吹き込む時間が出来た。

「……本当に、ストレートに伝えたほうがいいですよ。誤魔化し誤魔化しやってても、現実は変わらない。
先日も、貴女、よくこらえてましたが……彼にも一度、恥をかくってことを思い知らせるべきだ」
「……え……? ……どうして、あの中継の事……」

「や、あの時はたまたま遊びに来てて。
カメラ回ってない時だったんですが、その……雰囲気で分かっちゃいまして。……報道、応援してますよ」

深々とお辞儀をして、僕はもう目を合わせずにその場を離れる。
ダメ押しに握手も求めてみたかったが、まあ僕は男だし、女性に嫌われるのは本意じゃないしな。
背中を押した見返りなんて求めない、あとは彼女の心の問題だ、放っておこう。

「なぁなぁ、××××! 昨日の夕方のニュース、あれスゲェな!」
「ああ、見た。僕、放送事故って、初めて生で見たよ」

隣の席の男子に話を振られ、僕はデフォルトの口調(軽くないver.)で返す。
彼がほらと突き出すスマホ画面で再生されているのは動画サイトにアップされた昨日のニュース番組で、
地方選を控えての街頭インタビューVTRが流れる直前、
かの女子アナが淡々と読み上げた内容にスタジオの空気は一気に凍りついていた。
何故なら、スタッフによってセクハラが繰り返されていることを、彼女が静かに暴露したからである。

『上に掛けあっても改善しないので、お見苦しいですが、ここで伝えようと。――ええ、ストレートに』

そこでいきなり挿入されるCM。当然VTRはお蔵入り、結局僕はテレビに出られなかったようで、
がっかりなことこの上ない。あーあ、もしも出られてたら、隣の席のきみにも自慢出来たのにな。

「でもさー、どストレートにバラしてみるもんだよな。こないだのいちご狩りの農園中継の検証まで
始まってるし、局のウェブサイトも繋がりにくくなって、他局から引き抜きの話まで」
「そりゃあんな健気な人が困ってるのに、誰が放っておくものか」

嫌がらせをしてくるスタッフ達と同行しなきゃいけない息の詰まる取材でも、
ほとんど男性恐怖症からくる怯えを抑えつけて、プロとして僕に声をかけたほど、元は強靭な心だったのだ。
あんなの一日二日で陥る状態じゃない、だったらとカマをかけたら案の定……
え、「中継場所にたまたま遊びに来てた」?全く身に覚えがないな、その日僕は
吹奏楽部の練習に参加してましたよ。――無論、クロジョウヨシヒト、と書いたたすきを、心にかけて。

「え、意外。××××って、あのアナウンサーのファンなの?」
「さあね。強いて言うなら僕は、自分に正直な人間が、一番好きだよ」

机から次の授業の教科書とノートを取り出して、とんと背を揃えてみる。これだから止められないんだ、
迷っている人を助けたりとか、人の心を変えることは。……ただし人助けの満足だけじゃ腹は膨れないから、
帰りにはあのいちご農園の喫茶店にでも寄って、おやつでも頂くかな。食レポで彼女が「心から」絶賛してた、
本当に美味しいいちごパフェ。自慢じゃないが、一度や二度じゃないが、僕には心が見えるのだからね。