空飛ぶ風見鳥

屋根のてっぺんに静かにとまり、青い地上を今日も見下ろす。
誰に追い風が吹いているか、向かい風が吹いているか、いつ雲行きが怪しくなるか、晴れ間が見えるか。
そうして見渡す限りの風向きを、空気の流れや天気を読むことが、あたしこと風見鳥の毎日の仕事である。

風見鳥としての一番の自慢は、ひとえに目が良いことだ。
この瞳に映らないものはない。原っぱに群れ咲くシロツメクサのひとつが傾ぐのも、
柵に囲われた中でメイと鳴く羊の毛一本が風になびくのも、あたしにはすべてお見通し。
この目に映らぬものといえば、自分を含めて誰も見知らぬ、たたみっぱなしの両の羽根の色くらい。

目立つくらいなら、死んだ方がマシだ。
もしも派手に目立ったら、めずらしい鳥と間違われて猟師に撃たれちゃいそうだし。
たまごを産まない地味な自分には、上の空がよく似合ってる。
不穏な風向きを見極めながら、そんな身の上をつらつらと考えていた。

そのうちのある日のこと――平常な世界を脅かす、『あたしの代わり』は突然にやってきた。
畏れ多くも神を名に冠した彼に、心が少しざわめいた。たまごのひとつも産めないくせに、
大空を飛べもしないくせに、闇雲に指揮棒を振り回しては、とさかみたいなぎざぎざの髪を乱して、
はばたこうと地面を蹴飛ばす。まるで人々に風向きを示そうと、風見鳥になろうと背伸びして。

笑いながら差す人指し指でも、あれば違っていたかもしれないけど。
しばらくして……、丘の羊飼いや道行く旅人がここを見上げなくなった時、さすがに状況が読めてきた。
あたしが今まで、どんなに綱渡りじみた、心休まらぬ居場所に居たか。

「…………」

とまり慣れたはずのそこから今にも転がり落ちそうで、屋根のてっぺんでぐっと踏ん張った。
時にはこのとさかや尾羽が示す風向きを見て、にわか雨を逃れたり洗濯日和に徹した人達もいたはずだけれど、
今になって彼らの顔がよく思い出せない。
それもそうだ、高く遠ざかって見ているだけでは、顔など覚えようもないし覚えても貰えない。
(ああ、メグという少女に憧れて髪を伸ばし始めたことさえ、誰も気付かないのと同じこと。)

そこにあれば見るし、なければ見ない。
飛べない風見鳥の行く末など、天にとどまるか地に墜ちるか、上か下かの二択だけ。
だったらもう、下を選んでも―――風に流されあっちこっちを向くのにも、随分くたびれてしまったし。

(なんならこの辺で空気を読んで、彼に任せようか、『あたしの代わり』を。)
あなたもいつか、きっと一度は、風に当たり過ぎて心を冷やす時が来るだろうけど。
あたしが世界の流れを読み違えたことは一度もない、だからこれは、絶対の予言。

……その『一度目の間違い』が今回だったって、分かるまでにはもうひと雨。
臆病者の鶏だとばかり思っていたが、これでは無謀で勇敢なオオカミ少年だ。
風見鳥を貶すホラを吹いて、皆を巻き込んだその嵐が過ぎ去るまで――あたしは一人高みから、囮になりきる彼を見ていた。

(居場所を奪い合うんじゃなく、もしも彼の仲間にいれてもらえたら、あたしにも空が飛べるのかしら。)