どうしたら先輩みたいになれるんですか、と俺は面白半分に訊いた。
それは、後に途方もない数字で被害を語られる箱庭空襲の前夜、俺と宗像先輩のやり取りだ。
傍目にはあくまで、先輩と後輩という上下関係における、ありがちな日常の一場面に過ぎないかもしれない。
しかし、すでに手遅れだと理解してから振り返ってみれば、それはどんなに残酷な質問だったろう。
過去の自分がいかに楽観的で、まねいた事態の核心を分かっていなかったか、思い出すほどに悔やまれる。
俺は先輩をすごい人だと思っていたのだ。他者を殺すまいとする姿勢をなにより尊敬したし、
二年も後輩にあたる俺に、真正面から対等に友達になってと言ってくれたのも、純粋に嬉しかった。
そして当然、彼があやつる唯一無二のスキルも、俺のあこがれの対象だった。
(宗像先輩は、かっこいい。だが、のろい。暗器の捌きかただけが感動的にうまいけど、
それが宗像先輩が生きていくのになんのプラスにもならないことを、先輩自身もよく知っていた。
口癖は『だから殺す』。座右の銘は『全ての道はローマに通ず』。抱える異常は、殺人衝動。
そんな先輩と初対面で大喧嘩をし、傷つけあって、仲直りをして、
ついに彼が「友達になってくれるかい」と告白してきたのは5日前。
俺が頷くのに大した理由はいらなかった。先輩の言葉が、生きざまが、その全てがかっこよかったから。)
「もう、宗像先輩は本当に強いですよね」
「……そうかな。」
「そうですよ!暗器だってあっという間に捌けるし、手加減しても使えるじゃないですか。
どうしたら先輩みたいになれるんですか?」
「うーん、どんな風にでもなればいいけどさ。僕のようにはなってはいけないな」
「ええ、そんな!めだかちゃんも似たよーなことを言ってましたが」
「いや、黒神さんのとは多分意味が違う。それに僕は……きみのようになりたい、ともよく思うんだけど」
お互いがお互いにあこがれて、されど泥沼にはまるような不幸にはならず、俺達は関係を維持していた。
どうしたらこの繋がりが終わらずに済むかを心配することもなく、ただただ平和に仲良くしていた。
あの質問をした時、先輩にとって色々なものがとっくに終わっていたと言うのに。
ただひとつ、他人の手による改造と進化をまぬがれた心がどんな風に俺の言葉を受け止めていたか、今となっては知る由もない。
「……ごめんね、人吉くん。こんなのもう、先輩とも友達とも呼べないよね。」
(きっと冗談なんだろう。)
時計塔に墜落した「それ」を見た時、
降り注いだ瓦礫で怪我をした身体をひきずっていたにもかかわらず、俺は腹の底から笑いたい気分になった。
棒読みみたいにカッコを付けた感情の薄い声と、あふれんばかりに瞳にたたえた涙は、あまりにちぐはぐだったからだ。
宗像先輩は、今日も今日とてかっこいい。うなじを、背中を、胸を突き破って生える無数の暗器は、
俺があこがれていた今までよりずっと強力で、果てなく無敵で、見紛うことなき最終兵器。
俺はいつか先輩に訊いた。どうしたら、あなたみたいになれるのかを。それなのに。
どんな悪い罪を犯したら、こんな刑を受ける羽目になるという? 誰かどうか、教えてほしい。
「ごめん。ごめん。本当にごめん、人吉くん。こういう訳で今日限り、僕と絶交してくれるかい」
友達以上になる方法を、どうか教えて。
そっと触れただけで、ざくざくと指先が切れた。この落下地点を目指すにあたって、
崩壊した塔の破片を蹴り飛ばして道を開いたせいで、片脚は使いものにならなくなっていたけれど。
幸いなことに俺にはまだ、振るえる両腕が残っていた。
先輩を守るように切っ先が外を向いている刀を、まるごと包もうと手を伸ばす。
金属的な冷たさと錆くさい生温さに、視界が不意にかすんで、何もかもを見失いそうになる。
――抱き締めた宗像先輩は、心臓の音がしなかった。
先輩の視界を借りて見下ろす自分は、精密な照準の中心で泣き叫んでいた。