EeTomodachi

波乱だらけの二学期も足早に過ぎ去っていくこの頃。初雪が降ったその朝、曇天の下で、その赤色は
ひときわ俺の目を引いた。玄関を出た時から、水気に足を滑らせないようにと爪先にばかり目を向けて
歩いていたが、ほどけた靴ひもを直して立ち上がった時、ふとそれが視界に入る。

通学路の途中にある長い竹垣に、一輪の椿が咲いていた。しんしんと同じ色の粉雪が降りつづける、
静止画のような景色の中で、そこだけが上書きされたように鮮やかだ。

「………おー、」

化粧筆のようなおしべと、その薄黄色を囲う紅色の花びらを、まじまじと眺める。
『参平椿』というのはこれだろうかと、ふと、覚えたばかりのことを思い出した。
この間、地下庭園で宗像先輩とお茶をした時に話したばかりなのだ。
椿を新しくどこに植えようか迷っている、種類もいろいろあるからと、先輩は悩んでいたのだか。

背景の白さに映える赤にしばし見とれた後、俺はカイロと一緒にポケットに突っ込んできた、
携帯電話の存在を思い出した。そうだ、せっかくなので。折り畳み式のそれは、寒さで指先がかじかんだ
時には開くことすらもどかしい。もたつきながらカメラを起動させて、雪をのせて頭を垂れる緑の枝葉と、
その中心に開く花びら、どれもがちょうど枠の中に入るように気をつかって、シャッターを切った。

「宗像先輩、おはようございます。通学路で見つけま・し・た…と」

メール添付、いつものアドレスに送信。
なぜだか役目を全うした気になって(頼まれた訳でもないのに!)、俺はまた歩き出した。畳んだ機体は
なお、ほのかに移ったカイロの熱を残していて、俺はなんとなくそれをもてあそぶ。手袋も着けてくるべき
だったろうか。そう、宗像先輩が庭いじりをする時のものでもないけれど…。

つらつらと考えていると、学校に着かない内に、でびるるる、設定された着信音が鳴った。
宗像先輩からの返信だ。めずらしいことだった。
メール操作が不得手な彼からの返事なら、いつもはもう少し時間が、否、日数がかかることもあるのだが。

>>人吉くん、おはようございます。きれいだね。でも、寒そう。僕のほうはまだこんなだよ。

これまためずらしいことに、写真も添付されているようだ。
どれどれ、とファイルを開くと、画面が突然ぼやけた一色になる。

「……ん? あれれ」

ピンボケだろうか。大きすぎて枠からはみ出た輪郭線に、ほの暗さもあいまって、何を映しているのかさっぱり分からない。
文脈からは、被写体は花や風景などの自然物であることはあたりがつくのだけれど。
くすんだ薄桃色というか、暗赤色というか。がんばって目を凝らして見れば、家の庭の立ち枯れた幹のように細かくひび割れて……

「―――あ。あぁ、そっか! 先輩だ、これ!」

――指だ。
メール操作に不得手なはずの先輩が、めずらしく間を置かずに、急いで送ってきた写メール。
気まぐれに、今日はすぐに返してくれようとしたのかもしれないが、おそらく、
レンズに指がかぶったまま撮影したのに気付かず添付してしまったのだろう。
水遣りと庭作業で荒れた指の腹は、見なれて触れなれたそのものだ。

画面いっぱいに映る指に、まるで平面の向こう側から、
かけ離れた世界から、触れあおうと手を伸ばす一瞬を想像する。てゆーか、こんな新連載、最近読んだぞ?
もしくは、人差し指をくっつけて通じあうシーンが有名な、異星間の交流を描いた古いSF映画。
あるいは、リアルなコミュニケーションを売りにした話題の恋愛ゲームだったり。

「くくっ。ふ。く。………かっ! なんだよ、もう、」

(あたかもその手であたためられたかのように。)
……まいってしまう。携帯電話、……今すごく、手離したくない。
今どきの若者のお手本らしく、肌身離さず持っていたい。最近の携帯電話の目覚ましい進化は
そこそこ知ってはいるけれど、機体の手ごたえを心地よく思う機能とか、ついてたか?

ずいぶんと軽くなった足取りのおかげで、普段よりも早く学園にたどり着く。
返信に悩んだ俺はまだ、メールを送り返してはいない。なにせ人差し指を送られてしまった。
生まれて初めてもらったものだ。意趣返しに拍手でも送ろうか、って自然と笑えて。

「そうだ、ほんとは何映そうとしたのかも、教えてもらわなきゃな――」

宗像先輩から教わりたい。まなびたい。メールは届きましたと教えてあげないと。
ええっと、つまずきながら言いながら。俺はとても、今日も、すきなこととか。
結局、俺は返信を直に言い返すことにする。外気にさらされた携帯を再びポケットに戻す時、
熱をはらんだその中が、あの空調の整った暖かい庭と通じているのでは、空想した。