氷が炭酸にもまれる音が、軒先の風鈴みたいに聞こえた。
ほがらかな着信音が流れて、グラスを置いた宗像先輩が携帯を手にした。
それを何食わぬ顔で鞄じゃなく袖口から取り出すのは見慣れたけれど、曲には お、とつい耳を立てる。
ゲームが原作のアニメ主題歌で、最近じゃどこにいっても聞ける流行歌だ。
こうしてる間にもほら、カフェのオープンテラスに掛けて見てたら、町行く子どもが唄ってる。
「観てるんすか?」
「観てるよ。この通り」
画面に向かって短く返信を打ち終えた先輩が、ひょいと腕を持ち上げる。
ゲームに出てくるアイテムを模した腕時計。ふむ。『零式』とか言ったか、新しいの。
もっともこれは俺がその道に詳しいんじゃなく、雲仙委員長が見せびらかしてくるから覚えただけだ。
……ほめたら喜んでくれるかな、オモチャだけど。
「よく似合ってますよ、宗像先輩」
「まあ、零式だからね。語感になんだか世界線を超えた因縁を感じるしね」
「ええまあ。八月二十五日からはシリーズのコミカライズも再び始まるとか」
「CMだなあ、」
そこは許して、夏休みに免じて。
両手を揉み揉みゴマすって、俺はサンドイッチの最後の角を口に放る。
一緒にデートに出かけた今日、偶然見つけた穴場カフェ。こんなに美味しいなら
もっと流行るべきだと思うけれど、繁盛したらしたで宗像先輩の居心地が悪くなるだろうのは目に見えた。
決して人間嫌いじゃない……どころか、むしろ寂しがり屋なのだが。
人にちょっかい出さずにいられない人なのだ、少々。
似た者同士俺もまた、そんな彼に口を出さずにいられなく。首を吊らずに突っ込んでみたく。
「先輩先輩、それ、どういう所が好きなんだ?」
「無論。相手と分かりあって友達がどんどんふえてく所に決まってるだろ」
「おや。俺と言うものがありながら」
「ふん、歩く一夫多妻制が何を今更」
「なんかさらっとすごい罵られた!」
「言うだろ、好きな子ほどちょっかいかけたいって。それもこれも―――妖怪のせいかもね」
ミントサイダーの最後の一滴、清かなため息をついて宗像先輩はそろそろ行くかと席を立つ。二人分の伝票を
さりげなくさらって行く右手を俺はとっさに捕まえて、閉じた指を暴いた中に、輝く五百円玉を握らせた。
「ちょ待て。ダメですって、俺の分くらいはちゃんと俺の財布から出せます」
「……なるほど、これぞ友達の証。あーあ、あとはこの貰ったメダルでいつでも呼び出せたらいいのに」
「カッ、俺はそこまで安くねーっすよ! まあ宗像先輩がゲーム貸してくれんなら別ですけど」
「いいとも。ていうか行橋にもう一台借りて来たら、協力プレイだって夢じゃない……っとその前に、
一枚撮ろう。友達と仲良くしてるか、名瀬さんが心配してメールくれたんだ」
視線をたがえた寂しい過去は、貸し借りなしできれいに清算。
あとは仲良く、行き交うだけだ。お金をかけずに目をかけて、同じゲームの話ででも、盛り上がって。
シャッター切っても、おちゃめな妖怪が写り込んでツーショットにはならないそれに、手を叩いて笑って。
(夏休みの宿題に立ちはだかるは、朝顔の観察日記ならぬ、樹海を気長に望むウォッチング。)
難易度厳しいレベル5、だから攻略し難い彼の後ろ髪は、キュートな妖怪のしっぽのようにも二又なのだ。