お天道様が見てる中、うるさい男子を追い払った後は、いつものように公園の桜の下へと逃げ込んだ。
広げた枝葉が作る青い木陰には、蝉の鳴き声が響き渡る。夏休みお決まりのコースだ、そこで食べるアイスは
いつも、エアコンの効いたリビングより、大人に買ってもらったおやつより、遥かに甘いものに感じた。
「舞と咲みたいにさ、あたしも双子に生まれたかったなぁ。
そうしたら、双子のあたし達が力を合わせて、舞を守るのに。」
おこづかいを出し合って半分こした棒アイスに齧りつき、美っちゃんはぼやいた。
日差しを遮る葉陰がその憂い顔をさらに暗く見せて、あたしは小さなの胸騒ぎを覚える。
ひんやりした幹に背中を預けて、イチゴ味に舌を痺れさせ、夏だってことも忘れそう――
土から盛り上がる太い根元に腰掛けて、サンダル履きの爪先で「のの字」を書きながら。
「……ねえ、もしも美っちゃんが双子だったら、こんな時三人で分けなきゃいけなくなるんじゃ」
「あー本当だ! どうしようあたし達と舞で三等分か、ううん、減るなあ」
悩ましげに指折り数える隙に、その唇から赤いしずくが滴り落ちた。
それはキュロットの丈ぎりぎりの膝頭に落ちてまだ赤い傷口と混じりあうが、きゃっと悲鳴を上げたのはあたしの方で、
当の美っちゃんは何も持たない方の手でそれを事もなげにごしごし拭い去ってしまう。
男子にこかされて、擦りむいた傷。
いつものように、だ。あたしは今日も守られて――彼女と仲良く、半分こしてる。
だからほら、もしも美っちゃんが双子だったら、困ったことになる。
あたしは今まで以上に自分を守る必要がなくなって、無傷で分け前を貰うんだ。
差し出したハンカチを汚れるからともったいながって、でもでも!と美っちゃんはかぶりを振った。
「やっぱこーりつの問題じゃない! あっちが人数で来るんなら、こっちも人数で行くまでで」
「……ええと、ごめんね。もっとはっきり言えたら、いいんだけど」
「え! 違う違う、そういうのじゃなくて! だいたい、咲もぼさっとしてるから……あ、」
つまみ上げた半透明なビニルの内側で、半分近く溶けたアイスが揺れる。
分け合う前は冷たく凍っていたのに、冷めやらぬ怒りに拳を握る、その手の熱にあてられてしまったのか。
ぬるまる前にと急いで残りを吸ってしまう、か細い曲線の喉元を汗がつたう。
木陰のすぐ外側には陽炎がゆらめいていて、涼しい安全地帯である桜の下から一歩踏み出すには、しばらく時間がかかりそうだ。
……このまま時間が止まってしまえば、いっそのこと。
ここを出ていくまでの猶予と、蝉が桜から墜ちるまで、どちらが早く訪れる。
「…………」
(もたもたしてたらそのうちに、美っちゃんは本当に、二人分、三人分の役割で働き守ってくれるだろう。
そうしてあたしは、二人分も、三人分も、守られる。アイスだったら、真ん中でぶつんと折ればいいけど。)
時間が経つのが――怖いのだ。
一人しか居ないその人と、一つしかないこの身体が、いつかばらばらに引き裂かれてしまうのが。
半分こで今は満足できる心が、増えすぎた役割に疲れ果て、互いの思いまで見失ってしまうことが。
「…………ああ、食べ終わったらもう、暑いね。」
最後の一滴が行き渡らない、最後はじじ、とかすれて聞こえた。
そして目を逸らした陽炎の真ん中に二匹の蝉が横たわるのを、
あたしは暗い木陰に縛られたまま、日に焦がされる熱さを思いやった。