僕らの朝はいつも明るい。いつの季節も、いつの日も。
今朝の空は昨日より青かった。ふたりだけの部屋。
そっと入りこむ朝日は、それが空気中の繊維片でも一粒の砂金のように照らしだすほどに眩しい。
また一段、太陽が階段を昇る。また一段、橙色の髪の明度が高まる。
「今日・十五夜だって。月見飯」
卓袱台の向かいから聞こえる言葉。何となく点けたテレビの音に紛れながら、
けれど声はちゃんと真っ直ぐに僕まで届いた。彼は今朝もぴんと背筋を伸ばして座っている。
今日、僕は朝食を作っていない。食卓に並ぶのは、形の不揃いな豆腐が浮かぶ味噌汁と
小鉢につもる大根おろしと、たまごかけご飯。成程この卵部分が月見たる所以という訳だ。
僕はそれで構わないが、黒崎の胃には些か軽すぎやしないだろうか。修行僧のご飯みたい、なんて。
死神は何でも和風だからとちょっと思うけど、結局そんなのは全然説明にならなかった。
だから僕は疑問を呈す。月見は月の見える時にするものだ。
「まだ朝じゃないの。」
「んだよ、月は出てるぞ」
そう言って黒崎は身体を傾けて窓を指さす。
見える限りのずっと向こうに、夜の名残である色の薄いぼやけた月を見つけた。
それはとても目を引く背景で。それ以上に黒崎は僕の目を深くくぎづけて。
「綺麗。……いただきます。」
「おう、いただきます」
手元には、彼が月見飯と呼んだたまごかけご飯。
恋をすれば、色が変わる。藍の愛も黒の苦労も青の思案も、恋をすれば全てが明るい赤に変えられてしまう。
頬に現れるその色がいい例だと思う。でなければ、箸でつまみあげた先にある白い米粒と絡みあう黄身が
黄金色に見えたりはしない。絶対にない。黄はそれ以上になれない。普通なら。―――つまり今の僕は
普通じゃない。まして自分より下手な手料理を口にする事など。普通ならば、有り得ない。
目の前には手で作った料理。たまごかけご飯はぎりぎりその範囲内。
そうして三つの器を僕が黙って箸で行き来する間、何か待つようにじっと見つめる視線を感じた。
「おいしいよ?」
「……そうか。」
黒崎もそこでやっと箸を取る。厳つい顔で味噌汁をすすり、ぼそりと六十点と呟く。
いつも見るニュースは、今日が洗濯日和である事を明るい声で伝えていた。