(織姫さん、聞こえますか?)
あなたは私の妹君でね。お前はわしの孫である。織姫はあたしの友達さ。
キミはぼくのお姉さん。貴方はわたしの憧れよ。オメーは俺の母ちゃん。
(聞いてほしい、キミが大人になる前に。)
あれは六片の花の誕生日。
あの日よろしくと形だけ自己紹介はしたけれど、本当はぼくらは、ずっと前からキミを知っている。
名前も趣味も、続けている部活動も、好きな人も、お兄さんの思いが最期にどんな色をしていたかも。
家族のように、当たり前に秘密を分けあっていた。
ぼくらがキミの能力としてきちんと姿を現してから、キミはいつでもぼくらを信じ、全力で使ってくれる。
時々、日に何度も呼び出されて椿鬼はよく怒鳴っていたけれど、本心じゃないってことはばればれだ。
彼はいつも、怒りの衝動をうまく外に出せないキミの代わりに自ら意志をかためた拳となった。
いつかの公園では、転んで膝をすりむいた子どもに手を差し伸べ、誰にも内緒だよと密やかに笑って、
傷を『拒絶』してみせる。怪我が治り、嬉しそうに手を振って帰っていく背にキミも手を振り返す。
あの子がしゃべって皆にばれたらどうするのって冗談めかしてたずねてみたら、キミはほほ笑んだ。
空とおなじ朱に染められた唇が歌うように動く。
「大丈夫。誰も信じないもの」
黄昏時のやわらかい光がまぶたにのっかって、その重みで繊細なまつ毛は少しだけ伏せられる。
長いスカートの裾が、涼しくなる風にはためいた。
誰もあの子の話を信じない。愉快な嘘だねって笑って済ませてしまう。
だけどそれは、決して悪いことじゃない。まだ子どもの領域にいるはずのキミは、それでいて
大人びた表情で呟く。暮れなずむ空を見上げるその横顔が、ひどくうつくしくあったのが忘れられない。
それからだって彼女は何度もぼくらを頼ってくれた。最初は友達を助けるため。次は大事な人を癒すため。
三度めは仲間を守ろうと。何度でもぼくらは応えた。周りの人が深く傷つくほど、キミ自身のこころにも
大きな損害がもたらされると分かっていたからだ。そうして四度めも――すぐそこまで迫っている。
(織姫さん、今だからあなたに教える。)
この先の未来で四度めにぼくらを使う時、キミはおそらく誰かの傍で涙を流している。
自分一人の決意ではどうにもならない理不尽な状況にがんじがらめになって、手も足も出ないという言葉の
本当の意味を、今更のように知ることになるだろう。兄を亡くした日のことを思い出しながら。
(ぼくらは知っている、お兄さんの思いが最期にどんな色をしていたかを。)
『大きくなったな、織姫。』
彼はただ嬉しそうだった。
妹に背負われるなど考えてもみなかった・と。ずっと自分の保護の下にあるつもりだったのが
いつの間にか大人になる一歩手前まで来たと知って、ぼろぼろの身体と反対にこころは安らかだったのだ。
虚と化してからこそ彼は憎しみに囚われていたが、それも本当の魂の最期にはすべて浄化されていた。
四度めは避けられない。
けれど乗り越えることは出来るかもしれない。身長が伸びて髪が伸びても、それは一生変わらない。
(織姫さん、聞こえますか?)
聞いてください。聞いておくれ。聞いてよね。聞いてほしい。聞こえるかなぁ。聞け、聞け、聞け。
伝えるこの言葉をどうか忘れないで。ぼくらにとって大切な、大人になるキミへ。