うさぎはかぜのこ/初雪うさぎ

うさぎはかぜのこ

寂しいだけでは死ぬわけない。それが口寂しいとなると、死にそうな気分にさえなる。
会話をしたい、美味しいものを食べたい、あくびをしたい、話がしたい。暖房のきいた部屋で温くなった
スポーツ飲料をのどに流し込んで、病床に埋もれて、食欲もないのに弱々しく鳴るすきっ腹を持て余して。
今頃いつもの帰り道を一人で歩いているだろう石田を、熱に浮かされた頭で思い描く。

「あー……くそ……」

今朝から測るたびに新記録を叩き出している、
体温計のいまいましい数値が故障のせいでないことは、自分が何より分かっていた。
親父が医院に仕入れたばかりの新製品だ。脇に差して正確な体温を測るタイプは特に目新しくもないけれど、
驚くなかれ、なんと人気声優による体温お知らせボイス機能がついてくる優れモノである。

『ただいまお熱をはかっています。お兄ちゃん、ちょっとまっててね!』

体調は一向に優れない優れモノ。
家の救急箱にもこれしか無かったのだ。そうして今度こそはと体温を測ってみるものの、現実は目を開けて
いることすら億劫だ。もう何度目かという寝返りをうち、悔しまぎれにシーツをかき寄せる。皆勤賞の
夢はとうに泡と消えていたが、それでも学校を休んで良い気分になれるのは、せいぜい中学までだろう。
そうでなくても、死神代行業の看板を背負った以上、学校を欠席したり成績が下がったり、
目に見えた影響が出るのは嫌だった。要は、石田に頼れないと思われるのが、怖いのだ。

……疲れに思考が引きずられている。ああ、いっそ熱にやられて意識が完全に眠りに落ちてしまえば
万々歳なのだけど、身体が半端に抵抗しているせいでうとうととまどろんでは目が覚めての繰り返しだ。
顔でも洗ったら気休めにはなるかもしれない。ふらふらの頭をもたげ、
起き上がろうと力の入らない身体を叱咤する。と、その時、扉がひかえめにノックされた。

「一兄、起きてる? 入るよ」
「……夏梨? お前、うつるから来んじゃねえって」

慌てて拒否しても、すぐにドアは開かれる。同時に服の下からも、ファンシーな電子音とボイス。

「石田サンが、お見舞いにってうちに寄ってくれて」
『お兄ちゃん、大変たいへん!お熱が38.2℃もあるよう!ほら、子守唄うたってあげるから、おふとんに入って早く治してよね☆』
「………」「………」「………」

風邪と羞恥と恋心。トリプルプレーの顔の熱さにめまいがした。

「黒崎。僕は僕の手芸趣味について、それなりに心無い差別を受けて来た。
だからこそ、正直、人の趣味にあれこれと口を出したくはないんだが……まああれだ、妹さんはあくまで家族として大事にすべきだと思うんだよ」
「誤解だ……」

俺達を残して、夏梨はすでに部屋を出ていた――
人生で初めて見る、心底兄を軽蔑した冷ややかな表情を置き土産にして。いっぽうここまで案内された
制服姿の石田は、当たり前のようにベッドの傍に座布団を引き寄せ、正座し、神妙に諭してくる。
二対一とは卑怯だ。普段なら怒鳴って言い返すだろう反論さえ弱々しく、俺はまるで説得力に欠けている。
おまけにこの高熱では、ねまき姿に寝癖をつけたまま上半身だけ起き上がるのが精いっぱいだ。

「お、ま」

『お前には言われたくねえ』。軽くそう返すつもりが、咳き込んで半分も
言葉にならない。息が切れたせいで薄く涙にかすむ視界で、石田は医者のように首を傾げる。

「ところで、霊圧もひどく不安定だね。
普段よりずっと弱まってて、掴みどころがないし。こんなんじゃ死神化もろくに出来ないだろうな」
「……んな、酷いのかよ」
「そうだよ、こんなになっても自覚がないのかい。おめでたいね。無理が祟ったんじゃないの?」
「……」

鋭くたたみかけられて口をつぐむ。死神代行と日常生活の両立を指摘されていると、
察した。話をそらせるか。話題を切り替えられるか。言い訳をひねり出そうとする間、
自然とだんまりを決め込む俺から石田は顔を背ける。
そうして、やおら持って来た鞄を探り始める。中には、授業で使っただろう教科書とノートが
みっちりと詰まっていた。その隙間から取り出されたのは、石田の家で何度か目にしたタッパーだ。

「はい。」

差し出された箱の中には、うさぎりんごが整列していた。
ふたも開けられて、ぼやけた嗅覚にほんのりと甘ずっぱい香りが届く。まさか、見舞いの品なのか。
すすんで受け取っていいか量りかねていると、石田は手を引っ込めて不機嫌そうに口をとがらせる。

「君がすぐには食べられないなら夏梨ちゃんに預けてくるし、嫌いなら持って帰って処分するけど」

思いきり首を横に振れば、
石田はまたしても鞄の中に手を突っ込む。ケース入りの爪楊枝を取り出すあたり用意周到過ぎる。そして
楊枝をさしたうさぎりんごをひと切れ手渡された。今日はまるで食欲がなくて何も食べていなかったが、
石田がそれを持ってきてくれたのだ―――思うだけで空腹感が湧き上ってくるとは、なかなか現金な胃だ。

「いただき、ます」

よく考えたら、うさぎりんごを食べる機会はかなり久しぶりではないか。小さい頃は、白いしっぽと
赤い耳のどっちからかじるかにこだわっていた。懐かしくて、ちょっと気恥ずかしい。おいしそうな匂いは
分からなくても、端整なかたちには素直にそそられて、迷ってから、皮をむいてある白いほうをひと口かじる。
盛大に吹いた。

「……っ、んだ、コレ!」
「りんごだけど。ちなみに青森県産一個百二十円の」

りんごの水分を得て喉の滑りもいくばくか良くなった
ようだ、咳きこんだ勢いのまま、俺は声を上げた。ぜいぜいと荒く息をする度に、強烈な味が舌を刺す。

「違げ……酸っぱすぎだろ……!?」

酸味が凄い。異常に。十分に熟れてないとか酸味が特徴の品種なのだとか、そんなレベルの話ではなく。
もちろん時間が経って傷んだそれとも違うけれど、せめて吐き出さなかった自分を誉めたいくらい。
混乱とすがる思いの半々で顔を上げると、当の石田は涼しい顔でさらりと言ってのける。ここから、

「ああ、レモンの味かも。りんごの変色を防ぐには
レモン汁を塗るのが一番だし、何より風邪にはビタミンCが効くからな。風邪菌に直接攻撃だよ」

ここまで棒読みだった。
とてもじゃないが信用ならなかった。塗るなんてのはずっとソフトな表現で、実のところレモン汁に
一昼夜漬けてひたしておいたとかに違いない。でなければ、こんな劇薬じみたりんごが出来上がるものか。
いくら腹が減っていたとて、恋人の差し入れだとて――百歩譲って風邪に効く口に苦い良薬であれ、
受けつけないものは受けつけないのだ。石田と目が合う。どうだいとでも問いたげな眼差しが
そこにある。口の好みを取るか愛を取るか。しかしその口が無事でなければ、告白も出来ないはずだ!

「ありがとう石田、残りは後で食べ」
「薬だと思って必ず今日中に全て片付けろよ。」

睨まれた。凄まれた。さっきの妹とオーバーラップ。
……俺はこの同級生のどこに惚れたのだったか。不調のせいではない疲労感に襲われる俺を気にも
とめず、石田はごちゃついたベッドの枕元にタッパーを割り込ませた。そうして要は済んだとばかりに鞄を
持って立ち上がり、少しへこんだ座布団を元の場所に戻す。悪態と本心とが、頭の中で紙相撲のように
へなへなと戦う。それでも、病人が病室で友人を引き止めることはやはり気が引けた。

石田が完全にこちらに背を向けるのを、ただ待った。
するとドアノブに手をかけたところで、彼は不意に立ち止まって呟く。

「もしも今晩町に虚が出たら、僕一人で片付けるから黒崎は絶対に出しゃばるな。今回に限って、
死神代行の代行を僕が引き受けるに過ぎない。あまり体力を過信しないで、おとなしく寝ていてくれ」

棒読みだった、が。有無を言わせぬ語気とのどの痛みに、声が出ない。
感情なんて一片すら悟らせまいとするような、かちかちの堅い言葉は、ぎこちなく続く。

「明日までに風邪治さなかったら、りんご、倍にして持ってきてやるから。」

返事を待たず、廊下に出た石田は後ろ手でドアを閉めた。
閉まった扉の向こうで夏梨と鉢合わせしたらしい。
客用のお茶菓子でも持ってきてくれていたのか、帰るの?と尋ねる声が聞こえる。そしてすかさず、
一兄には近づかないで帰った方がいいよ、と付け足した心境は察するに余りあるとして。
遠ざかる二人ぶんの足音を聞いていたら、何だか―――額から余分な熱が逃げていく感じ。

「……あ」

布団に落ちて頭上を見上げると、もの言わぬうさぎりんごがそこにいた。
タッパーに詰められているりんごに、朝から持ち歩いて移動したような傷みは見えない。さながら、
一度帰宅してから制服も着替えずにりんごを出して、いかにも学校帰りを装って俺の家まで来たように。
ぬくもりの残る座布団に手を伸ばして触れた。頬がゆるんだ。乾燥した部屋でひびわれた唇が少し切れて
いる。酸っぱさの後はしょっぱい血の味で、痛いやら馬鹿馬鹿しいやら、顔をしかめたり笑ったり忙しい。

――忙しいから寝ていよう。
気持ち楽になって、やさしい言いつけ通りに眠たくなった。虚の前に風邪を退治するためだ。

「……けどやっぱ、明日も休みてえよなあ。」

そして、いつかめでたく彼が風邪を引いたあかつきには、きっと同じ目に遭わせてやろう。
その後一時間あまり、見た目ほど甘くないうさぎと格闘しながら、俺はそんな恩返しを企てていたのだった。

・・・・・・・・・・・・・・・

初雪うさぎ

春は遠く、冬はまだまだ遊び足りないような放課後。
せっせと雪を降らし続ける灰色の空を見上げ、一護は
さした傘を反対の手に持ちかえる。濃紺の布地に薄く積もっていた雪が音をたてて足元に落ち、
並ぶ二つの足跡を覆い隠した。二歩前までが白に染まる。そこで、寒空の下に派手なくしゃみが響いた。

顔をしかめ、一護は思い切り鼻をすする。風邪で学校を欠席した昨日の今日だ、まだ症状は
抜けきっていない。ふと隣の雨竜を見やると、さも迷惑だと言わんばかりに口をへの字にして、無色の
ビニール傘を頭寄りにかざしてしっかり距離を取る。病み上がりの一護を風邪菌扱いしているらしい。

「……俺だって、別に心配しろとは言わねーよ」
「当然。僕はただ、くしゃみする時は最低限口を手で覆うべきじゃないかなと思っただけ。」

正直で正論だ。これ以上は言い負かされるのが目に見えていてそれきり口をつぐむ。
けれど間を置かず口を開いたのは雨竜の方だった。

「―――あ、」

急に早足になって角の電柱へ近づき、透明の傘を肩に掛けてしゃがみこむ。反射的にその背を追うと、
彼の方から振り返った。腕に何か抱きかかえている。吐息でくもる眼鏡の隙間から背景と対極の黒の瞳で
見上げられ思わずどきりとした。しかも次の台詞には、驚いたなんてものじゃなくて。

「黒崎、うさぎだ。」
「うさぎ…!?」

雨竜はやや上気した頬で頷く。そう、学校指定の紺のコートの袖に抱かれているのは、汚れない細かな毛を
震わせる白うさぎ。まるでその腕の中が定位置であるかのようにとてもおとなしく収まっている。

「んだよ、飼われてたどっかから逃げたのか?」

少し落ち着いて呟けば、雨竜は途端に怪訝な顔つきになった。うさぎの背を優しく撫でながら立ち上がり、
失敗をとがめるように一護に問う。

「君の目は節穴か。魂魄だろう、この子。」
「……はぁ!? 魂魄って、霊って事か?」
「自分で確かめてみろ、」

言うが早いか、雨竜は抱えているそれを容易く一護に向けて放る。
生きものを投げるか!と抗議しようとした言葉は、それを受け止めると同時に引っ込んだ。
(軽いっつーか、重みが無え……)
生身の温かさも、しっとりと雪に濡れているはずの湿った毛先の感触もなく、触る事が出来るだけだ。
自分が見間違うはずもないと主張したいけれど、確かに霊体だとしか言いようがない。赤い目を覆う小さな
まぶたに雪片が降りかかる度に、うさぎは目を瞬かせ小首を傾げる。雨竜はからかいを含んで少し笑った。

「やっと分かってくれた?」
「……不調なんだよ、病み上がりでな」
「へえ、普段と変わりなさそうだけど」

生きものを抱いていると、何故か怒る気もそがれる。そうして一護が少しだけ気を抜いた時、マフラーが
ずり落ちた感じがして身体を見下ろした。コートのポケットに結わえていた代行証が消えており、
顔を上げれば、その結い紐をくわえたうさぎが――ちょうど白い道路を駆けていくところ。

「な……ッ何しやがる!!待て!」

状況を悟り、さすがに雨竜の顔色も変わる。もしも代行証が無くなるか、
他人の手に渡ってしまったら……嫌な想像を打ち消すように、雨竜が声を上げた。

「挟みうちだ・黒崎! 僕は先回りするから君はとにかく追いかけろ!!」
「……っ、じゃあ頼む!」

雨竜は横道へ、―護は正面の道へ分かれる。一気に臨戦体勢だ。共に虚退治に関わるようになって長い、
互いの呼吸まで読みの内に入っている。雨竜なら、霊圧をたどって待ち構えておくなど朝飯前だろう。

鞄と傘をまとめて脇に抱え、走る。地を踏みしめて蹴る一歩ごとに雪が鳴る。コートの
裾が重くはためいて走りにくい。風を切ってと言うよりは、真っ向から吹く北風に肌が切られるようだ。
呼吸するのもだんだんと苦しくなってくる。目の前にちらつく白に、一瞬うさぎを見失って。
――不意に足場を失う感覚。強く踏みこんだそこは凍りついていて、足が滑った。

(……!!)

背中から地に打ち付けられる衝撃を想像して、きつく目をつむる――
けれどすぐに身体を包むのは、溶けかけた雪ではなくて、しなやかな腕。
恐る恐る目を開けると、眉をひそめて上から覗きこむ雨竜とさかさまに視線がかち合う。つまずいた瞬間、
背後から抱えるように身体を支えてくれたらしい。半端な中腰の体勢から、今度は足を踏ん張って立つ。

「大丈夫か? 頭からいったら洒落にならないぞ」
「あ、悪ィ……助かった、」
「しかし……あのうさぎ、厄介だな。」

雨竜がため息をつく。こうなったら仕方ないが、
一旦は帰宅して死神化するしかないかと考えた矢先。――張り上げた幼い声が後方から発せられた。

「うさぎ、いるんですかっ!?」

振り向くと、視線を落とさなければならなかった。黄色の傘に赤の毛糸帽子、丈の短いダッフルコート、
肉球の形の手袋。黒いおさげ髪を揺らして肩で息をする少女は、すがる目でこちらをじっと見ている。
次に口を開いたのは雨竜だった。

「……もう少し詳しく教えてくれるかな?」

一護は事の成り行きを見守るしかない。
幸いにも、音なく降る雪の中で話を遮るものはなく。女の子は唇をかみ、途切れがちな言葉で話す。

「うさぎ、飼ってた……はりちゃん、死、んじゃって。お墓も作ったのに、でもまだ・信じられないのっ、」

絞り出す声は、泣くのを我慢しているためか。
そこまで聞いた一護には、もう霊としてのうさぎがちゃんと見えていた。いつの間に戻ってきたそれは、
少女の足元を頼りなくさ迷い、小首を傾げる。この場で二人の少年にしか見えていない、それは。

雨竜はちょっと思案して、肩がけ鞄を開ける。取り出したものを見て一護は目を丸くした。
昨日見舞いに家に来た時も、雨竜は同じものを持っていたからだ。
透明なタッパーの中に整列したうさぎりんご。箱を差し出された少女が、わずかに息をつめた。

「これ、はりちゃんに供えてあげていいかな。」
「……でも…死ん、っ……」
「君は頑張って探してた。随分走ったんだろう?」
「……。」
「一生懸命探してもらえて、愛されて。あとは君が笑ってくれたら完璧――って、僕は思うけど。」

雨竜は女の子の小さな手を取り、容器を持たせる。彼女は泣きそうな顔で、泣かないように堪えている。
一護はその光景に、耳で聞いただけの雨竜の過去を垣間見た気がした。
どこか懐かしい既視感に、胸がしめつけられる思いがする。
汚れない雪は降り積もり、ただ足跡を消していく。
うさぎは、繊細な毛を震わせて伸びをする。そして泣きはらしたような目を細め、少女を見上げていた。
 
 
雪は止み、すっかり暗くなった道を二人歩く。たたんだ傘からは水が滴り、雪どけを早めていた。
結局あの後は母親が少女を迎えに来たので、一応挨拶してから場を後にした。うさぎのいた所には
代行証が綺麗なままで落ちていて、その一点から始まる小さな足跡がどこまで続いているかは知らない。

――きっと、もう遊ぶ必要がなくなったのだ。そうして、行くべきところを見つけたのか。――

けれどひとつ疑問が残り、一護は雨竜に訊ねる。

「うさぎりんご、昨日と同じのじゃねえだろうな」

昨日とは一護が欠席した日だ。雨竜の見舞いの品は、曰く風邪に効くといううさぎりんごレモン汁漬けと
いう代物で。泣く泣く完食したのは言うまでもない。問われた雨竜は、あっさり首を横にふる。

「まさか。剥いたままだよ、青森産一個百二十円」
「……なら、なんで俺にはレモン漬けなんだろう」

雨竜は正直に言葉を吐き、一護の皮肉に返事はない。
ただ容赦ない物言いに閉口しても心底嫌にならない。例えば、普段より遅く帰路についている理由。
一護が昨日受け損ねた小テストの追試が終わるまで、終業後で暖房を切った寒い教室に居残るだけの訳は。
例えば、今日またうさぎりんごを用意した原因。風邪が治らずにまた学校を欠席したら、
帰りに再度家を訪れるはずだったのではないかという憶測も。初雪の中で見た、あの優しい横顔とか。

「石田……って何か、うさぎみてーな奴だ」
「……何を突然。頭の風邪は治ってないのか?」

(赤い目で泣いて、泣いてないって言い張ってみる。
さみしさに耐えられなくて、気を引く事を仕掛け。本当は白に染まって、独り密かに消えたがったり。)

「さあ。でも、石田が見舞ってくれたから、今日はまともに学校に行けたと思ってる」
「……もう三日くらい休んで頭を冷やしたらどうだ」

三日くらいで自分を恋しく思ってくれるだけで、一護は満足だった。
雨竜はマフラーを寄せ、もう余計な事を言うまいとばかりに布地で口元を隠す。
三日くらい。聞いた後でふうんと吐息に隠したのは、その三日とも見舞いに来てくれるなら・という呟き。
うさぎの長い耳で、聞かれてしまわないように。