その日の席替えのくじ引きで、俺は、晴れて石田の隣の席を引き当てた。教室での席替え自体は
月に一度という頻度で行われているものの(気まぐれな越智先生の単なる気分転換らしい)、
俺と彼とがこうして同じ横列の連続する配置になるのは、進級前から数えてなんと一年ぶりのことである。
思えばこれまで席替えの度に涙を飲み、素晴らしき五十音順制度によって無条件に近い席になれた入学時を
懐かしんでいたものだが――それも今日まで。
あなめでたや。って言うんだっけか、こんな時は。なぁ、石田?
「めでたくなんかないよ。おめでたいのは君の脳味噌だ」
見るからに使い込んだ教科書やら手縫いの体操着袋やら、新たに引っ越した席でてきぱきとそれら私物を
整理しながら、石田はこちらをちらりとも見ずに返事する。笹の葉が擦れあうような清い声がすぐ隣から
聞こえる。まあ、本当に俺の脳味噌がめでたいなら、今日のお祝いにサバの脳味噌煮など作ってもらうのも
やぶさかではないが。くす玉ならぬくす頭、いっせーのぉせで割っちゃって。
(なんて、昨日テレビで見たバイオレンス映画のCMじゃあるまいし。)
しかもそれじゃ俺が食えんし。そもそもからして、せっかく一年ぶりに隣に巡り会えたというのに、
のんびり飲み食いなぞしていられるか。逃がさぬように、見張らなければ。
「石田、教科書半分見せて」「石田、問題ちょっと教えて」「石田、おかず一口交換さして」
毎日願って飽きることがない。気を引きたくて仕方なかった最初の頃を、一年後の今、再びやり直す。
此岸と彼岸の間を流れる言の葉はいつ紅葉して色を変えたか、たくさんのものを貸して手渡してくれた
その右手は、いくばくかの月日を経て空っぽのままでさえ差し出されるようになっていた。
「石田、力貸して」
「僕が先に言おうとしたのに。黒崎の出しゃばり」
「……無茶苦茶だ」
「なに、僕の助けが要らないの?」
「要るよ。手と耳を貸せ」
笹やく言葉は、七日でなくとも清らかだ。
七月七日、席替えをした。クラスの日直は、隣同士の席の二人一組で担当することになっている。今日の
当番はやはり越智先生の気まぐれで(曰く『お前丁度誕生日が近いから』とか。受け持ったクラス全員の
誕生日を把握しているらしい)、俺になった。俺と彼。黒板の端に白墨で濃く書かれた日付の下に
並ぶ、二人の名前。自分の手柄でもないのに、陽のあたるその名前たちを眺めて、俺はほくそ笑んだ。
「表札みてーだな」
「秒殺しようかな」
「ラッパーかお前は」
「クインシーだよ。死神嫌いのね」
笹の葉が擦れあうような清い声が、すぐ隣から。
可愛いこぶって脅迫に見せ付けたブレスレットの十字架が微かにたてる、凛とした響きを伴って、それは、
聞こえる。対岸目がけて叫ばなくても、十分聞こえる。一年待った。もう待たない。
あなめでたや。
せっかく一年ぶりに隣に巡り会えたというのに、美味しいご馳走に舌鼓を打つことも愛慕う言葉で
睦みあうこともなく、しかしただ少しの間だけ、牛飼いは憂し戦いを衣織りは尽きぬ争いを忘れ―――
無難に仲良くたわむれて、お互いを一番に見つけた一番星たちは幸せに七日を過ごしていくのだ。