「あ。にやけてる」
言われて僕がスマホから顔を上げたら、したり顔の神峰が笑っていた。
まったく早押しクイズでもあるまいに、言い当てるのが早すぎだ。
そもそもそんな言い方だと、まるで僕がいかがわしい動画か何かに耽っていたみたいだし。
僕はただごくごく真面目にニュースサイトを閲覧していただけなのに、心外。
「くく、見逃すか。心が先ににやけてたんだって」
「……お前は目が良いな、ほんと」
ほめられた、と神峰はまた笑う。一から十までバレているのだ。
ああ観念、歩きスマホに夢中になって、横から画面を覗かれたのにも気づかない僕が悪いのか。
春めいて開放的なニュースを、新着の中に見つけたばかりに。
実は、ちょっと前にお偉いさんたちが検討し始めた時からそわそわ気になってはいた――
東京のどことか区では、僕らみたいな似た者同士も、証明書を以てパートナーだと認めてくれるって言うから。
鵜呑みにするから気も逸って、僕は神峰に聞いてみる。
「行こうか? 東京」
「ん。いつ」
「卒業したら、すぐにでも」
「おー。卒業旅行だな」
新芽のように膨らむ想像に、遊びの計画に、何やら鼻の頭がくすぐったい。
すぐにでも弾丸ツアー、卒業証書をもらったその足で高飛びするのも悪くない。どこへでも行こう、
空にそびえる電波塔、大人でもはぐれそうな難関の地下駅、一昔前の刑事ドラマ映画で有名なあのブリッジもひと目見ておくかな。
運が良ければ、虹が架かるかもしれないぜ。
「晴れっかなァ」
「日頃の行いが良ければね」
「つーか証明書の用紙だけお土産にもらって帰るとか、出来んのかな」
「うーん――群馬県民だし未成年だから、お土産は難しいかもしれないけれど」
「ふーん。たとえどこ県民でも成人しても、オレの気は変わらねェから。……っはくしょい!!」
ニュースでも読むような真面目な声で、神峰は思いの丈を……くしゃみで〆た。
春風に運ばれた砂埃や花粉にやられたか、少し涙目にうつむくさまに、僕はあわててポケットのハンカチを探る。
目にゴミが入ったと堂々とぼやける言い訳を与える、濡れ衣をかぶって風を吹かす、春の優しさといったら。
布きれ一枚で彼をなぐさめて、紙切れ一枚に夢を見る。
証書を手にするその式までは、まだ少し時間があると思う。時計を見ながら秒刻み、焦らないで、僕らの時間を進めていく。