この世で最も美しいものが、桜の木の中に埋まっているという。
その正体を知りたくて斬り倒し続けてきたのに、いつしか春は過ぎてしまった。
夏も来ない。秋も来ない。それでも厚い長袖の服で、冬の訪れに備えていたら――
たどりついた最後の一本は、今まで刃を入れたどの木より、堅固に大地に根付いていた。
一本の桜を斬るたびに、一筋の光明も失われる。
刃が散らす木っ端で、眼鏡のレンズが汚れてしまうのだ。消えない曇りに唇を噛んでも、乾いた切り傷が痛むだけ。
……こんな無謀を続ければ、いずれ愛器が刃こぼれしてしまうんじゃないか。どうしたことだ、
全てはあのかけがえない友人に従って始めたことなのに、今となって、オレは彼の言いつけを疑っている。
(オレのしていることは、本当に報われるんだろうか?)
オレ達が報われるには、本当に斬り倒すしかないのだろうか。
もしも斬り損ねてしまっても、木目をうまく継ぎさえすれば、見た目は治せるかもしれないけれど。
「……オレが、終わらせないと。終われない……」
ここまで――くさって投げ出すことなく、ここまで来たなら。悲しみや寂しさではなく汗水にまみれたせいだ、
ぽとぽとと滴を垂らす憎い目蓋を仮面で上から押さえつけ、オレはまた、重い腰を上げる。
次から次へと芽生えた希望も、あと一断ちで、ようやく根絶やしに。
泣いて喜べ、嬉し泣け。オレはやっとすべての希望を諦めることが出来るんだ、
ざらつく切り株に重い腰を下ろし、刻まれた年輪の溝の数に、時の流れを思い知ることもなく。
いつの間にはぐれた四人の仲間たちも、神も仏も、どこにも居はしなかった。
切れば切るほど拓けていく視界のどこにも、見つけられなかった。
最後の一本。
今までに斬り倒した無数の桜と同じで、きっとこの中身も、期待を裏切る空洞だ。
物わかりよく、諦めかけて……小さな声に、手を止めた。
呼ぶ声は――どこからか。
眼鏡が汚れて前が見にくい分、いやに鼻が利いて、桜の匂い。ここに居る、と、返事がある。
「……、ここに居たのか。」
みんな散り散りに離れ離れに、どこへ行ったと見失いかけていたら、最初からずっと近くに。
どこにも去りなどしなかった。大きな桜の幹の中、外の世界を恐れて、息を潜めて隠れただけだ。
神様も仏様も、仲間たちも、オレがいつか自力で彫り出すのを、待ってくれていたのだろうか。
刃が唸る。泣き言ではない、奮起の咆哮。根底を支える、揺るぎない重低音。
ついに彫りあてたそこからは、気高く優しい四人の音が、懐かしい音色が溢れだす。
倒れることを厭った桜よ、強く仁王立ち、匂い立て。
五つの花弁を結んで開け、六日目の夜が切なくとも、七色の喜びを信じて進め!