オレの腕を咲につけてやることは出来ないんですか、と尋ねたら、永かった医者の説明はそこで不意に途絶えてしまった。
同席していた親は勿論、中学生のオレ達にも分かるようにと出来るだけ噛み砕いていた難しい言葉の数々が、
いっぺんに喉につかえたかのように。
しかしそれでどうして言葉を失うのかが分からない、今のはただ、出来る出来ないを問うただけなのに
――それでもじっと大人しく返事を待つと、彼の怖い目に気が付く。
歳がふた回りも違うだろう自分を、明らかに恐れる、怯えた視線。
やがて、「出来ない」、と絞り出された涙声は、彼が項垂れたせいで床にぽとりと落ちる。
分かりました、と素直に答えた。いや、その「出来ない」が技術的に無理なのかそれとも倫理的に許されない
のかどちらの意味かも分からなかったけれど、オレが質問を続ける前に、美子と舞が泣き出してしまったのだからしょうがない。
説明が中断されなければ、もう少し聞きたいことはあったのだけどな……、無傷の身体を横から大げさに支えられて、
なかば運ばれるように診察室から出て行かされる、病人扱いに閉口しつつ。
聞きたいことは、もう聞けない。
そんな簡単なことも出来ないのか、出来ないくせに、お医者の先生なのかと。
昔からの親友が一番困っているときに救いの手を差し伸べられない、そんなの、親友と呼べるのかも。
いつでも一番聞きたいことは、一番聞きたい音は、あいつのせいで――――
……オレだって見殺しにしたようなものだと、心では痛いほど分かっているのだ。
一生あのままでいい、なんて二人の衝突を止めなかったくせに、後になって、あいつさえいなければ、なんて、何様だ。
だけど無事に生き残ったのが咲だったなら、あんな申し出を医者に出来ただろうか。
「…………オレだったら、良かったのに。」
外で吹雪く桜が見える、窓ガラスに自分の横顔が映りこむ。ずたずたに引き裂かれた心に答えが降ってくる、
あの医者が化け物でも見るような目をしていた理由が、その時、なんとなく察せられた。
(生かすために刃を持つ人間が、斬るために刃を持とうとする人間を、怖くないなんてことがあるか。)