オールドファッション*イラスト付き

「桜が嫌いで、フードの付いた服が好きだったんだよ、」

パーカのフードに積もった花びらを刻阪の手に掬われながら、ついつい話に尾ひれをつけた。
決してウソではないけれど、なんとなく昔話を続けたかったのだ。
もなかのポイですくうが如く、柔らかく春風に撒かれる桜の一片を見ていると。

全てはこんな陽気のせいだ、釣られた魚みたいにへの字に結んだ口も、ほころび開く暖かさ。
美味しいお弁当に楽しい出店に皆とひとしきり夢中になって、慣れないくたびれにやれやれと腰を下ろすまで気付かなかった――
「舞い落ちた桜がフードの中に入り込んでるぞ」と背後にいた刻阪に笑われて、
そんな顔も見えぬまま、レジャーシートの上にあぐらをかいて、すくわれ続ける怠け心。

「だってフードかぶって隠してりゃ、こんなおかしい頭も他人に見られずに済むからな」
「はは、どうりで! 僕はおかしいとは思わないけど、まあ、恥ずかしがり屋なら仕方ないね」
「ンな生易しいもんか。面倒くせェぞ、見たくもなければ見られたくもねェって」
「いやあ、生易しいよ。そんなのももう見慣れたかな」

フードを少し後ろに引かれたと思うと、
晒されるうなじから生え際をくすぐられ、ぬはと変な声が出る。
前のめりになりながら振り向くと、伸べるように差し出された刻阪の掌から、風に吹かれて桜が逃げた。

その行く先を目で追う限り――見渡す限り、青空と桜の流行色。
季節によく似合って、永い月日を感じさせる。
おかしいな、こないだこの服を着ていた春から、一年しか経ってないのに
――こんな、流行の先を行くような世界の速度に、心が逸る。

見れば、刻阪の黒いジャケットの肩にも点々と花びらが休んでいる。
フードからかき出してもらったみたいにそれを払いのけようかと手を伸ばしてから妙にためらわれて、
とりあえず、宙ぶらりんになった手に最後に残った射的の景品をのせて、オレは刻阪に選ばせた。

「……ペアストラップ? 『SHAKARIKI RABBIT』って、最新のシリーズだよな」
「ん。空色と桜色の色違いだから、お前と楓さんに。遅くなったけど、色々教わったし」
「ああ、うーん……どうしようか」
「あ。あ、だよな、とっくにフランスに戻ってるだろうし、こんなちゃちなの趣味じゃねェならいいんだ」
「え!? いやそうじゃなくて、二つももらったら神峰のが一つも残らないだろう!」

刻阪は強引にオレの手に片割れを握らせ(ニンジンを頬張る桜色のウサギだ)、
自分は空色の方を受け取って神妙な顔つきになる。

「それに実は、姉さんはSAKANA-HIT派だったり」
「マジか」
「マジだ。それに『お礼に気を遣うくらいなら実績で見せろ』とか叱られそうだしね……
という訳でこれは僕だけ頂くよ。ありがとう」
「や、ありがとな」

そしてお礼に交換する、刻阪が花見の差し入れに買ってきたドーナツをもらう。
小箱の中には自分の髪色に似たそれがあった、
皆になんとなく気を遣って食べ損ねたと思ったら、別に取っておいてくれたようだ。

本当に――心が流行る。
たくさんの柄の、色の心に目移りしても、サックスを象ったそれが一番目指す最先端だ。
昔からとは今は言えないけれど、いつか言ってみたいのだ、昔から好きだったんだと。

昔から好きだった服を、好きこのんで着て花を見た。
その帰りに手にする荷物には行きには付けていなかった流行りのストラップが揺れていて、
色違いではあったけれど、同じ夕日の一色に暖かく照らされていた。