こだまトゥーン

「お子様へのプレゼントでしたら、贈り物用にお包みしましょうか?」

青年店員の親切なご案内に、あたしはひどく打ちひしがれてしまった。
まさか、確かに今は仕事帰りで顔もメイクもくたびれ気味だとはいえ、全年齢向けのゲームソフトを買った
だけでもうそんな歳に見られてしまうのか。不意討ちのショックのおかげで「まあ、姪が」などと余計に
誤魔化してしまったのだが、レジカウンターに立つ年下と思しき店員は、照れくさそうにはにかんでみせる。

「急にすみません、そのお写真、すぐそこの鳴苑幼稚園ですよね。
僕の子もそこにいまして、演奏会が楽しかったー!って大騒ぎだったもんだから、つい」
「はい……? ああ、そういうこと」

財布を出そうとしたバッグに付いたパスケース、それに彼は注目したようだ。
飾り付けられた教室を背景に、園児達と仮装した奏者達がもみくちゃの、にぎやかな集合写真。

教え子たちが先月、幼稚園に赴いて演奏会をした時の一枚だ。
そもそもの依頼を渋ったあたしは後を神峰に任せて同行しなかったのだが、「夕子先生にも見せたくて」と
吹越がくれた写真を見れば、行かせて良かったかは一目瞭然だった。それはなんとなく持ち歩くくらいには
いい思い出であり、そういうわけでこの写真は私の「お子様」ショットではなく、どころか結婚もまだまだだ
―――と言い訳すべきか悩んだけれど、もう真剣な顔になって、ラッピングを始めちゃあね。

いつもなら、こんな風にわざわざ電器店に立ち寄る必要もなく、通販で予約したソフトが自宅に届くのを待つだけだった。
しかし年度の変わり目というのは公私においてやる事が山積みで、アパートの契約更新やら
部員名簿作りやらに追われていたら、ちょっとゲームの発売日を確認して予約するのも、後回し後回しでこのざまだ。
ああぁ、やってらんない。「いいご縁がないかね」などとせっつく実家からの電話がなければ、
注文する暇くらい出来たのに、こんな“ご縁”に立場の差を感じることも、なかったのに。

「…………。」

こぼれたため息は――思ったほど憂鬱じゃなかった。

まるであの子たちの仮装をイラストにしたみたい、ウサギやネコが踊るファンシーな包装紙を、
骨張った手が丁寧に折りこんでいく。皺が寄らないように箱を包んで、仕上げにリボンを結ぶ指には、
石のない結婚指輪がきらりと光った。子どもに折り紙を教える時や、高い背を折ってひざまずき
子どもの靴紐を結んでやる時も、きっとこんな風にするだろう、優しい手つきに少し見とれた。

「――ありがとうございました。もう暗いですし、お帰りはどうぞお気をつけて。」
「……ありがとう。」

美しく包装されたプレゼントを受け取って、なあんだ、あたしもまだ夜道の一人歩きを心配される
ほどには見えるんだ、と思った。都合の良い解釈だった。されど、頑張った自分へのご褒美でもある。
お子様なゲーム趣味を卒業出来ない限りは、案外こんな感じなのかもしれない。

それにお子様と言うなら、あたしには、教え子達の面倒見で手一杯だし。
皆が高く飛び立っていくのを無事に見送ってやるまでは、自分の道は、後回しだ。

(……そう言えばあたしが幼稚園の頃は、名前の「夕子」を、タコちゃん、なんて呼ばれたこともあったっけ。
カラフルな墨で塗り潰す陣取り合戦、あたしにぴったりハマるゲームだったりしてね?)