街角で誰かとすれ違い、よそ見で見とれる横顔を見つめる。
まじめな顔して「綺麗だ」と、歩みを止めた神峰が呟いた。
空気の澄んだ朝のこと、行き交う人々の多くが足を止めてその人(達)を見上げていた。
ビル壁の大きなTVモニターの中では、髪の色もユニフォームも異なる三人の選手が表彰台に立っている。
極寒の大陸の開催地からの中継に「すごい」や「よくやった」と周囲がさざめく中、
キレイだと言う神峰の言葉の、主語は何かと考え込む――その思考すら、見られてる。
「あ、綺麗ってのは、ココが。――なんかもったいねェの、メダルをかけたら、隠れちまう!」
選手宣誓、胸張るように。
心臓の上に右手をあてがい、伸びやかな小声がちょっと早口になる。
ぱちりと瞠った目も弾ませた眉と声音も、彼にしてはめずらしい。だって心を見て嬉しそうなのだ、ああ。
「僕はてっきり、選手本人のことなのか、それともメダルの色を言ってるのかで迷ったよ」
「え!? や、そりゃ映ってる人達も、ステンドグラスっぽいデザインもかっけーけど」
「かっこいいよな、金銀銅のダイヤ形も。……ところで、ココがどう見えるって?」
「ああ、透明に澄んでたり、万華鏡みてェだったり……あー!もういっそ、」
お前にも見せてやりてェよ!
伝えたいことが多すぎるからと、息ごと吐き出し胸を叩いて、歯を見せながら神峰は笑う。
いつもより少しにぎわう街角で、輝かしい彼らに釘付けになり、遠く離れた晴れ舞台を思う。
開いた瞳でここから眺める、他の誰にも見えない景色を、目の良い彼に教えてもらったり。
映像が次のニュースに切り替わったところで、僕は一歩だけ、一言だけフライング。
「じゃあ、コンクールも楽しみだな。もし金賞なら僕がお前の首に金メダルをかけてやるよ」
「うわっマジで!!?」
「いや嘘ゴメン。メダルじゃなくてトロフィーだけどね」
一瞬信じたらしい神峰は、すごい真顔でその場に固まった。
やりすぎたかと口をつぐむのと、指揮棒を持たない腕がぬっと伸びるのはほぼ同時。
「ひゃあっ!?」
「嘘つくから悪ィの!」
マフラーの隙間をかいくぐり、冷えた指先で首筋をさっと撫でられる。
ひやりとした一瞬の感覚に、しかし心までは冷え切らない。
たたんと足踏みなんとかアクセル、コートの裾をちょっと翻し、くるりと回って神峰は言う。
「つーか、よく考えたらサックスも金メダルっぽいか。キラキラして、ストラップで首から下げてるし」
「なるほど。まあその流れだと、サックス吹きは皆おそろいになるんだけど」
「はは! 心配ねェよ、オレは絶対に見分ける。メダルをかけて隠しても、刻阪の心は、わかる――」
人込みの中で金メダルの話題、どこにでもある風景を二人でなぞって。
数えればどうせ千枚以上も存在するメダルとは比べものにならない、
どんなカメラより深い部分を中継する目と一つとして同じものはない心、
それらと他愛無いおしゃべりを交えて、今日も同じ一つの道を進む。